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【2024年度・第1回コンテンツクロスメディアセミナー開催報告】3DCGアーティスト:小畑正好氏が語る「デジタルコンテンツによって変革するコンテンツ制作」

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KYOTO CMEX の公式イベント「コンテンツクロスメディアセミナー」。2024年度1回目のセミナーを、2024年10月16日(水)にハイアットリージェンシー京都(京都市東山区)で開催しました。講師にお迎えしたのは、3DCGアーティストの小畑正好氏です。小畑氏は、NHK入社をきっかけにコンピュータグラフィックス(CG)の世界に入り、現在では生成AIも活用しながらさまざまな映像・デジタルコンテンツを制作されています。今回のセミナーでは「デジタルによって変革するコンテンツ制作」をテーマに映像制作の最前線についてご講演いただきました。

 

現在の生成AIに繋がる流れ

まず小畑氏が説明されたのは、ものづくり全般のデジタルトランスフォーメーション(DX)化です。DX化により、ものづくりの現場は手作業からロボットを活用した作業へ、そして3Dプリンターでの出力へと変化しつつあります。ここで押さえておくべきは、DX化は単なるデジタル化ではないということです。小畑氏は、DX化は新しいデジタル技術を活用することで作業を効率化し、それによって生まれた時間で新しい価値を創造することであり、DX化の究極と言えるものが生成AIであると位置づけられました。

またDX化は、より多くのコンピュータを統合して活用するクラウドネットワークシステムも生み出しました。クラウドネットワークには2つの種類があります。1つはAWSなどのコンピュータの記憶領域を利用しデータを共有するシステムで、もう1つはスーパーコンピュータなどの超高性能なコンピュータのプロセッサを共有し高度な計算を行うシステムです。従来、一般ユーザーが利用できたのは主に前者のクラウドシステムでした。後者のシステムにアクセスできるのは非常に限られた人でしたが、これが一般化したものが生成AIであると小畑氏は指摘します。

 

XR技術の進化

続いて小畑氏が説明されたのは、XR技術の進化です。XR技術には、VR(バーチャルリアリティ)、AR(アグメンティッドリアリティ)、MR(ミックスドリアリティ)、SR(サブスティチューショナルリアリティ)の4つがあり、それぞれ意味が異なります。

VRはコンピュータグラフィックスで作られた空間に没入する技術、ARは現実世界を映したモニターに仮想のグラフィックスを重ねる技術。MRは眼鏡などのレンズを通して直接現実世界を見ながら、そこにグラフィックスを重ね合わせる技術です。SRは視覚だけでなく他の感覚も含めてリアリティある世界を作るより先進的な技術ではありますが、まだ研究段階にある技術。小畑氏はそれぞれの技術についてこのようにご説明されました。

XR技術は、カメラアプリの加工フィルターによく利用されているほか、アパレル業界ではバーチャル試着などにも利用されています。活用が進んだ結果、リアルの映像と画像のデータが融合する機会も増えました。そして同時に、AIに欠かせないデータ学習の機会も増え、コンピュータが自動的にデータを解析して学習するディープラーニングも進んでいくことになったのです。

 

データビジネス以外の業界への浸透

次に小畑氏は、コンピュータグラフィックスやCADがデータビジネス以外の業界に浸透していった過程を説明されました。

これらの技術はまず建築業界から活用が始まり、次いで自動車業界、家電業界、アパレル業界へと浸透していきます。家電業界までは活用が進みやすかったものの、アパレル業界においては、事業者の数が多い産業構造であることや、柔らかい布製品であるため変形しやすく学習・計算しにくいことから、浸透するスピードが遅くなりました。とはいえ、高級生地からより効率的に縫製用のパーツを切り出す方法など、生産効率向上のためのAI活用を中心にさまざまな模索が現在も行われているそうです。

生成AIには不得意な分野もあります。それが、デザインとアートの切り分けです。デザインは他者を意識して行いますが、アートは自分の思いを自由に表現するもの。たとえば生成AIに売れ残らない服をデザインさせると、最初こそさまざまなデザインを出すものの、最終的には白いTシャツやワイシャツのようなものに収束していく、と小畑氏は考えています。

一方、アートはどうでしょうか。最近は生成AIを使ってアートを作成する、生成AIアーティストという肩書きを持つ人も登場しています。従来のアーティストには、自分の内面を表現するために、絵を描く道具や器用さが必要でした。しかし、生成AIを使うとコンピュータに指示するだけで自分の内面を表現できます。この変化について、小畑氏は「画期的」であると評価しています。

小畑氏の専門である映像制作についても同様です。映像制作は、かつては専門知識やスキルを持った人が複数協力し、時間と手間をかけて行うものでした。しかしコンピュータグラフィックス技術の登場により、ひとりで、机に向かって制作できるようになりました。コンピュータグラフィックス黎明期から映像制作に携わっている小畑氏にとっては、コンピュータグラフィックスの登場は大きなインパクトがあるできごとだったと振り返ります。そして生成AIに は、コンピュータグラフィックスと同等以上のインパクトがあると小畑氏は考えているそうです。

 

実際の生成AIの活用シーン

続いて、小畑氏は実際の生成AIの活用シーンについてスライドや動画を交えつつ説明されました。たとえば、リアルな人物を生成して口を動かし、その動きに合わせて言葉を発する翻訳サービスや、Photoshop の切り抜きや合成、背景の生成。服のデザインを行うときに、素材の質感やドレープ感を反映してデザイン画を作成する技術などです。また、動画も10~15秒程度であれば誰もが短時間で大きな破綻のないものを作れるようになっていることもご紹介いただきました。

ご紹介いただいた生成AI映像には、より高度なものもありました。目の前にいる人の動きを動体カメラで感知し、それに合わせて自然に動き案内するインタラクティブデジタルヒューマンやバーチャル試着システムは、一般のユーザーにも比較的なじみがあるものでしょう。さらにARを利用したファッションショーも紹介され、会場の参加者は興味深そうに見入っていました。

最後に紹介されたのは、芸能プロダクション「スペースクラフト」の50周年記念動画です。この動画は、プロダクションに所属している人をボリュメトリック(時間と空間を丸ごと撮影して3Dデータ化する)という手法で撮影してデータ化し、そこに生成AIで作った映像を合わせて作ったもの。映像はもちろん、台本やBGMも生成AIで作成し、制作にかかった時間は実質5日、携わったスタッフの数は小畑氏含めて3人だったそうです。

より多くの人が生成AIを使いこなせ、自分で映像を作れるようになる時代がいつかやってくる―小畑氏はそう確信されています。「そのような時代がきたとき、コンテンツの価値がどうなっていくのか。我々プロフェッショナルはどのような価値を生み出さなければならないか、日々考えていかなければならない」。小畑氏はこのような言葉で今回の講演を締めくくられました。

講演後に行われた質疑応答では、近年話題になることが多い生成AIと著作権についての質問に、小畑氏は丁寧にご自身の考えを説明されていました。質疑応答を含めて約2時間、たっぷりの実例を交えつつお話くださった小畑様、参加された皆様、誠にありがとうございました。

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