『にわとりはじめてとやにつく』栗原侑莉監督 独占インタビュー【第27回京都国際学生映画祭入選作品】
- 2025/3/9
- インタビュー・講演録, ピックアップ, 京都国際学生映画祭, 映画, 映画・映像
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2025年2月6日から9日にかけて、京都文化博物館フィルムシアターにて、「第27回 京都国際学生映画祭」が開催された。KYOTO CMEXは、京都国際学生映画祭のパートナーとして、主に広報面からイベントの開催をバックアップしている。
この記事は、16作品の入選作品の中のひとつ『にわとりはじめてとやにつく』で監督を務めた栗原侑莉さん(東京藝術大学院・修士課程1年生)への独占インタビュー記事である。制作のエピソードや監督自身のお話など、作品をより楽しく鑑賞できる内容をじっくりと伺った。
【パートナーイベントレポート】京都国際学生映画祭――学生よ、古きを温め映画界の次世代を創れ
第27回京都国際学生映画祭のイベントレポートは上のリンクから確認できる。
『にわとりはじめてとやにつく』あらすじ
200X年、世界は「全ての生き物が生まれも死にもしなくなる」という未知の災害に襲われた。生という無期刑を課せられた世界で男と少女は出会う。なぜ人は生きるのか、この命に意味はあるのか。人が生きる意味に迫った、短編アニメーション映画作品。
映画の道に進むのを決めたのは、結構最近
栗原監督は、大学入学当初から映画の道を志していたわけではなかった。初めはデザインの専攻に進み、その中で映画に興味が湧いてきたそうだ。
――幼い時から映画やアニメはお好きだったんですか?
「そういう訳じゃなかったんです。どちらかと言えば映画好きという子供ではなくて、ジブリとかはよく見ていたんですけどね。大学でデザインを学んでいく過程で、『人に物事を伝えること』と向き合うことが多くなりました。その中で、人に何かを伝えるには、映画という手段が向いているんじゃないかなと思い、学生生活の集大成となる卒業制作には映画を選びました。それが『にわとりはじめてとやにつく』です。ただ、これが初めての映画・アニメーション制作だったのですが……」
――では、制作は結構大変だったのでは?
「そうですね、ゼロからの出発に近かったので。構想自体は大学3年生のころからぼんやりとあったのですが、4年生になってから脚本を仕上げてって感じで……。実際に絵が動き出して、というのは4年生の秋ごろになっていたと思います」
――スタッフやキャストの方は、同じく東京藝術大学の方々ですか?
「私が声をかけて集まった同じ大学の仲間です。音楽は作曲を専攻している友人にお願いしました。彼らにはアニメーションの絵コンテ(ラフスケッチのようなもの)と、目指してほしい雰囲気を伝えて、あとは自由に作曲してもらいました。声優も友人にお願いして、ちょいちょい私がディレクションを入れつつという感じでしたね。収録は楽しかったですよ」
――何か収録のときのエピソードがあれば、教えてください。
「タイトルの『にわとりはじめてとやにつく』の正しい発音ってわかりますか? 私たち、最初それが分からなくて、その場でYouTubeを開いてNHKのアナウンサーの発音を調べたりして。そんな感じで本当に和気あいあいと進んでいきました」
伝えたいことをブレずに描きたい
栗原監督は、『にわとりはじめてとやにつく』をアニメーション形式で表現することを選択した。映画といえば実写の作品をイメージする方も多いと思うが、ここからは、アニメーションでの表現を通して、栗原監督が伝えたかったことは何かに迫った。
――アニメーションと実写、表現できる幅に違いはありますか?
「アニメーションのほうが実写より思い通りになる箇所が多いなと感じています。例えば実写だと、例えば葉っぱの向きとか、自然の物に対して思い通りにいかないことがあるじゃないですか? 構図づくりという観点から、アニメーションのほうがより私の描きたいことを表現できると感じましたね」
――なるほど。確かにアニメーションだと、思い通りにできますね。その点で言うと、色彩にもこだわりを感じました。
「お話が冬から春へと向かう時間軸に進んでいくのですが、その様子を色から感じ取ってもらうことができたかなと思います。デザインをする上での知識も活かしつつ、注目してほしいシーンには色彩も工夫した点があります」
――脚本に関して、「現象」が「意味」という言葉と対比構造になっているように感じました。脚本に関して、注意した点はありますか?
「実は、脚本をブラッシュアップする際に、ちょっと方針を転換したんですよ。それが結果的に、2つの言葉に上手く帰結したんだと思います。偶然といえばそうなんですけど、そこはぜひ作品を鑑賞して意味を考えていただきたいです」
コロナ禍を経て
『にわとりはじめてとやにつく』の制作のきっかけとして、コロナ禍を経験したこともあるそうだ。筆者も当時は学生時代を過ごしていて、後ろ髪を引かれるような時間を過ごした。
――この映画を作ろうと思ったきっかけはコロナ禍ということですが、制作を通して考えなど、変わったことはありますか?
「私が大学1年の頃がちょうどコロナ禍真っただ中でした。1年生向けのイベントとか、全部なくなっちゃって、悔しかったです。コロナ禍に対する印象は変わらないんですけど、この作品が自分の気持ちの整理できるきっかけにはなったと思います」
――具体的にはどんな気持ちの変化だったんでしょうか?
「やっぱり悔しい、取り戻せない時間だなと思います。でも、この作品のキャストやスタッフって、当時を共にしてきた仲間なんですよね。失ったものも多いけど、獲得したものもある――それを世界に見せつけたかったというか。そう考えると、制作をきっかけにして、自分の気持ちに変化がありましたよね」
京都は大好きな街
今回栗原監督は授賞式のために京都に訪れていた。その感想を問うと、「京都って大好きな街なんです」と監督は話を続けた。

八坂神社から祇園を望む 撮影:雨森
――授賞式に出席する他に、京都観光はされましたか?
「もちろんです。昔から京都という土地が大好きで、京都国際学生映画祭の機会に便乗して色々なところを回りました。昔のモノと最先端のモノが共存している感じで、すごい土地だなと思います。普段いる東京より市民と芸術との距離も近いような気がするところも気に入っています」
――京都での思い出があれば、教えてください。
「実は、本作の主人公「デザイナーの男」のモデルの一人に森見登美彦先生の『四畳半神話大系』の主人公「私」がいます。森見さんの『夜は短し歩けよ乙女』や、『四畳半神話大系』の聖地巡り――例えば、下鴨神社や祇園を周りました」
私は映画を続けたい
栗原監督は現在修士課程1年生。この春から最終学年を迎え、進路も意識しなければならない時期だが、将来はどのように考えているのだろうか?
――将来の夢はありますか?
「大学院を卒業したら、映画監督になりたいなと考えています。でも、実は休学しようと考えてるんですよね。だからあと1年で卒業はできなさそうです」
――休学ですか! 芸大の方のキャリアがわからないのですが、休学しようと思ったきっかけは何でしょうか。
「芸大で大学院に進学する人は結構多いんですけど、私はその中でも修行不足だなと感じています。最初にお話したように、『にわとりはじめてとやにつく』が、初めて取り組んだ映画製作でした。映画という表現に出会うのが遅すぎたし、修行が足りていないことを痛感しています。だから休学します。休学して、その期間に勉強しながらまた作品を創って、さらに自分が成長できるように頑張りたいと思っています」
――では、今後はどういったことを学び、創作に活かしていけるのでしょうか。
「今回結構たくさんの反響をいただいて。自信にもなりましたし、個人的にもとても楽しかったんです。だからまた、私のメッセージを映画に乗せて、それを伝えられるようにしたいですね。そのために自分と向き合って、さらに良い作品を出せるように修行します」
学生映画を作るということ
京都国際学生映画祭で入選を果たした栗原監督。「ほかの監督のレベルが非常に高かった」と振り返りつつ、後輩たちにメッセージを送ってくださった。
――出品を考えている後輩たちへメッセージをお願いします。
「学生時代にしか作れない感性を大切にしてください。京都国際映画祭は審査員が学生の方々ということもあって、学生の皆さんと想いを共有できたのも、私が入選させていただいた理由の一つかなと思います。確かに幅広い世代に受け入れてもらえるようなメッセージづくりも大切だと思うんですが、それ以上に今しかできないことを大切にしてほしいと思います」
――ほかの入選監督の作品はいかがでしたか?
「関監督の『ボウル ミーツ ガール』。あれ本当にすごいですよね。初めて見たときは衝撃でした。本当に皆さんレベルが高いので、自分の力を精一杯作品に込めて、誰かの琴線に触れられる作品を創ってほしいと思います。過去の入選作品も参考にしながら、最大限のパフォーマンスを発揮できることを期待しています」
おわりに
以上、第27回京都国際学生映画祭入選作品『にわとりはじめてとやにつく』より、栗原監督へのインタビューであった。本作品は、YouTubeやU-NEXTで公開中なので、ぜひ何度でも見返してほしい。
今回の入選を糧に、映画監督として成長していく――そんな若き栗原監督の今後の活躍に、目が離せない。
栗原監督のSNS
X: https://x.com/kastanie_works
Instagram: https://www.instagram.com/kastanie_works/
聞き手・文 雨森
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