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「地下鉄に乗るっ」がフランスに!? 魚雷映蔵佐野さんが描く、世界に誇る「ご当地コンテンツ」の今後とは

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202569日から15日の間、フランス・アヌシーで「アヌシー国際アニメーション映画祭2025」が開催。その併設マーケットMIFA「インディーアニメ特集」にて、アニメ「地下鉄に乗るっ」が展示された

展示期間中は、「地下鉄に乗るっ」のアニメ制作を手掛けた株式会社魚雷映蔵の代表・佐野リヨウタさんもフランスに飛び、作品をアピールした。この記事では、アヌシーでの様子を佐野さんに伺いつつ、アニメとしての「地下鉄に乗るっ」だけでなく、コンテンツとしての在り方も再考する。

MIFA「インディーアニメ特集」について

今回のブース展示は、特定非営利活動法人 映像産業振興機構(VIPO)の企画に、魚雷映蔵が応募し、審査を経て選ばれた形だ。経済産業省令和6年度「クリエイター・ 事業者⽀援事業費補助⾦(クリエイター・事業者海外展開促進)」の一環として行われた。

日本の優れたインディーアニメおよびインディーアニメクリエイターを海外に紹介するため、15点の作品が選ばれた。国境を越えた仕事の獲得や資金調達、海外のアニメビジネス関係者との商談等を目的としている。

応募したきっかけは軽かった

コロナ禍を終えて

「コロナ禍のせいで、構想中だった「地下鉄に乗るっ」の様々な企画を実施する機会に恵まれず、悔しい思いをした」と前回のインタビューで語った佐野さん。同様に、それまで盛んだった海外との交流や接点も途絶えてしまった。そのため、「地下鉄に乗るっ」としてだけでなく、会社としても再び海外に進出する足掛かりを探していた。

「応募は、指定フォームに必要事項を入力する程度だったので、気楽でした」と、軽い気持ちで本作を応募した佐野さん。しかし、実際に出展が決まると、交通機関やホテルの手配はもちろん、作品の翻訳や再編集など、タスクは多かった。

いざアヌシーへ

アヌシーはフランスの南東部、スイスに近い位置にある。羽田空港からドイツのフランクフルトを経由し、スイスのジュネーブに到着。さらにバスに乗り換え、揺られること約1時間、ようやくアヌシーに到着した。

古い建物が残り、近くにはアヌシー湖を湛える、風光明媚な素敵な街。景色を見たり、言葉を聞いたりしていると「地下鉄に乗るっ」が世界に羽ばたいている実感が湧く。

フランスの「テラス(la terrasse)」文化も満喫。本記事執筆にあたって、筆者が「アヌシーの風景や食べ物の写真が見たいです……」とお願いしたところ、たくさん画像を共有してくれた。

閑話休題。映画祭期間中だったが、街には、日本人はおろかアジア系の通行人は少なく、ヨーロッパのリゾート地のような雰囲気だったと、現地の様子を教えてくれた。

「地下鉄に乗るっ」の何が評価されたのか?

現地での展示の様子

今回佐野さんは、「地下鉄に乗るっ」の他に、魚雷映蔵で企画・制作したアニメ数本を応募したが、すべて落選した。また、魚雷映蔵以外にも多くの出展希望者がいたにもかかわらず、「地下鉄に乗るっ」が選ばれた理由は何か

ちなみに、応募条件は以下の通り。詳しくはこちらのプレスリリースを参照。

・日本のインディーアニメクリエイター/企業であり、海外と仕事をすることに意欲的であること
・海外PRおよび海外セールスが参加の主目的であること
・現地で上映する映像の権利関係がクリアになっていること
・会期後に実施するビジネス成果を問うアンケート・ヒアリングに必ずご協力いただけること

VIPOは選定理由を公表していないが、「地下鉄に乗るっ」というアニメ作品の立場の特殊さにあるのではないか、と佐野さんは考えている。

ご当地コンテンツという特異性

烏丸御池駅で活躍する「地下鉄に乗るっ」

ひとつは、「地下鉄に乗るっ」が本格的な短編アニメでありながら、京都市交通局という公共交通機関のキャラクターを用いている点。行政が絡むキャラクターコンテンツという成り立ちは、世界的に見れば、極めてユニークだろう。10年以上の時を経て「地下鉄に乗るっ」は、京都の地に根付いてきた。「京都」という国際的に有名な都市の知名度も相まって、地域と一緒に生きるコンテンツが持つ力は、世界に誇れるものであると言えるのかもしれない。

ふたつ目は、「地下鉄に乗るっ」のアニメが、クラウドファンディングの支援を受けて制作されたという点である。クラウドファンディング自体が珍しかった時代に、この短編アニメ制作は多くの賛同者の支援を得て、大成功をおさめた。制作者とファンが繋がり、共に作品を創り上げた背景は、商業作品とも自主制作作品とも性質が違うそこに、特異な成り立ちを持つ本作ならではの価値を見出せる。

さらに、「地下鉄に乗るっ」というコンテンツそのものがイギリスの大英博物館で展示されるなど、これまでの国際的な評価の影響も考えられる。応募条件の「海外PRおよび海外セールスが参加の主目的であること」が、審査担当者の琴線に触れたのかもしれない。

以上のような「地下鉄に乗るっ」の持つ背景が、総合的に評価されたのではと佐野さんは考えている。今日のアニメは、単なる娯楽作品としてだけでなく、ミュージック・ビデオや小説のアニメ化など、様々な在り方が乱立している。しかし、それらとは一線を画しているアニメ「地下鉄に乗るっ」。いずれにせよ、京都発のユニークで奥行きのあるプロジェクトとして、選考者の目に映っていれば嬉しいところ。

「アニメ「地下鉄に乗るっ」の映像としてのクオリティや内容というよりかは、ご当地コンテンツから生まれたアニメ作品だというポイントを高く評価していただいたのでは」と、佐野さん。作品の表面的な部分ではなく、奥深い背景が評価された点に、手ごたえを感じている。

ビジネスイベントで感じた喜びと悔しさ

「地下鉄に乗るっ」を世界の人に知ってほしい

展示会場にはモニターが設置され、そこに「地下鉄に乗るっ」のアニメが流されるという、簡素な形だった。大きな規模ではなかったが、佐野さんは自社の実績をまとめた冊子を片手に、多くの人に魚雷映蔵と「地下鉄に乗るっ」の魅力をアピールしたと、教えてくれた。

「英語はほとんど話せないのですが、”This is my company!” などと強引に話しかけ、冊子を見せながら解説すると、皆さんに好意的な反応をいただけました。「地下鉄に乗るっ」に関して紹介する際も、”Do You Know Kyoto?” と問いかけると、『知ってる』『行ったことがある』という反応が返ってきて、さすが日本が誇る観光都市・京都の知名度を実感しましたね」と、佐野さん。冊子にはYouTubeに公開しているアニメ映像の英語字幕版の二次元コードを添付し、「地下鉄に乗るっ」を多くの外国人に知ってもらうことができた。

運営との連携不足は否めなかった

しかし、「VIPOの通訳担当が一人しかいらっしゃらず、なかなか来場者とのコンタクトのタイミングが合わなかったのは残念でした」と付け加える。ミュージック・ビデオなど、ノンバーバルな映像作品の展示も多かった中で、複雑な背景を持つ「地下鉄に乗るっ」の概要を説明するには、言語の壁は高かった

フランスに出発する前の準備期間は、展示の事前情報もあまりなく、到着するまで不安だったという佐野さん。しかし、自ら積極的に動くことで、一定の成果を持って帰国できた、と笑顔で話してくれた。

佐野さん自身の強みは行動力と、アニメの制作者として誰よりもコンテンツを愛していること。2016年に「地下鉄に乗るっ」アニメ化の企画書を書いた当時の情熱は、今でも燃えている。

「グローカル」なIPへ……?

今回のイベントが開催されたフランスは、日本のコンテンツとの距離が近い国。たくさんの日本の作品が輸入されている。また、日本のマンガにあたる「バンド・デシネ(Bande Dessinée)」が第九の芸術と呼ばれるなど、創作に対する環境は整っているとも言える。

アヌシーで世界のアニメ市場を目の当たりにしてきた佐野さんは、「地下鉄に乗るっ」の新たな可能性に気付いた。京都という「ローカル」さを深く掘り下げたこの作品が、そのまま「グローバル」へのアピールになる、グローカルなIPとしての可能性である。

「日本では無名の町工場の技術が、実は海外では高く評価される……といったように、まだまだ世間に伝わっていない「地下鉄に乗るっ」の価値を、世界の方々が見出してくれるかもしれません」と、佐野さんは語る。

「地下鉄に乗るっ」を世界基準にチューニングして改変するのではなく、京都の日常を描く作品そのものが、世界的な価値となり得るのかもしれない。

まとめ:「地下鉄に乗るっ」が世界に認められるということ

「京都市交通局はコンテンツ企業ではなく、あくまで交通機関。赤字解消やオーバーツーリズム対策優先されるのは当たり前です。そのうえ、数年で「地下鉄に乗るっ」の担当者も変わります。そこに継続的なモチベーションを求めるのは、難しいことです」と、佐野さんは理解を示しつつ、苦悩を吐露した。

しかし、厳正なる審査を経て、MIFA「インディーアニメ特集」に日本が誇る作品の一つとしてアニメ「地下鉄に乗るっ」が選ばれた事実が、何よりも佐野さんの自信につながった。プロジェクトとしての作品は、魚雷映蔵だけで、あるいは佐野さん一人でどうにかできる範疇を超えている。止まりかけの「地下鉄に乗るっ」に、今、新しい光が差し始めた。

今回のように対外的に評価された結果こそが、膠着状態にあるプロジェクトとしての「地下鉄に乗るっ」を再び動かす力になるかもしれない。佐野さんは、そこで果たすことのできる役割を、改めて見出すことができた。

「地下鉄に乗るっ」と、次は京まふで会える……?

京まふは、西日本で最大規模のアニメ・マンガイベント。今年は、20日(土)と21日(日)に、京都のみやこめっせで開催される

桃奈さくらさんが描く、可愛らしい太秦萌と京乃つかさ。メインビジュアルにふたりが起用されていることからも、「会えるの……?」と、期待が膨らむ。佐野さんのX京まふのホームページをチェックしていると、嬉しいニュースが入ってくるかもしれない。

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雨森

投稿者プロフィール

京都歴22年目。KYOTO CMEXの一員として、地元目線からのディープな情報を発信。写真も自分で撮っています。

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