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魚雷映蔵佐野リヨウタさんに訊く。「地下鉄に乗るっ アニメーション展」の裏側と、コンテンツを取り巻く厳しい現状

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2025年5月24日から29日までの間、「地下鉄に乗るっ アニメーション展」が三条河原町のVOXビル3階、 FRAME in VOXで開催された。6日間の会期の間、たくさんのファンたちが会場に詰め掛け、その熱気はSNS上でも話題となった。

企画展を仕掛けたのはアニメーション制作会社、株式会社魚雷映蔵の代表、佐野リヨウタさん。「地下鉄に乗るっ」のアニメCM制作をはじめ、数々のイベントの企画運営を担うなど、長年にわたりコンテンツの中核を担ってきた人物だ。

「地下鉄に乗るっ」に登場するキャラクターたち。左から、太秦萌、松賀咲、小野ミサ

この展示会では、京まふやライブハウス「VOX hall」でかつて行われたアニメ上映イベントなど、「地下鉄に乗るっ」に懸ける佐野さんの情熱、ファンとの繋がり、そしてプロジェクトが歩んできた道が、再び交わったようにも感じられた。

しかし、「地下鉄に乗るっ」の現状は、必ずしも順調ではない。本稿では、展示会を開催するにあたって佐野さんに直接お話を伺った内容を紹介しつつ、「地下鉄に乗るっ アニメーション展」のイベントレポートをお届けする

KYOTO CMEXでは、計3本に渡って「地下鉄に乗る アニメーション展」の様子を追った。他の記事は以下のリンクから!(工事中。更新され次第リンクが有効になります)。

①オープニングイベントの記事「長い線路の上を、一緒に地下鉄に乗ってこれた感謝。思い出の地、VOXビルで感動が蘇った一夜【地下鉄に乗るっ アニメーション展】オープニングイベントレポート」。
③クロージングイベントの様子はこちら。

アニメの裏側を知れる貴重な資料が展示

会場には、アニメの原画やキャラクター設定資料などをメインに、クラウドファンディングの返礼品や当時の企画書など、ファン垂涎の数々が並べられた。ここでは、その貴重な展示品を紹介する。

アニメ原画の展示

特に、原画の実物が展示されていたことは嬉しい。デジタルで書かれた線を印刷したものではない、アニメーターの方々が魂を懸けて描いた線を間近で見られる、またとない機会となった。

ちなみに、制作側の佐野さんにとっては、仕事柄、原画を見る機会が多い。そのため、「珍しいものでもないし、原画なんて未完成品なので出すのはどうかと思ったが、事務所に置いてあるから出してみよう」ぐらいの感覚だったそうだ。しかし、思いの外ファンからの反応がよく、驚きを隠せない様子だった。

実際、会場にいたお客さんは真剣な眼差しで原画に向き合っていたことが印象的だ。撮影OKなのもありがたいポイント。ただ、このようなアナログの原画は保管場所を取ってしまうのが課題とのこと。捨てられてしまうのは残念なので、このような展示の機会を通して、資料の残し方を再検討する機会にもなった

当時の佐野さんの情熱が伝わる企画書

他にも、2016年のクラウドファンディングの際に佐野さんが起こした企画書が展示された。当時の空気感がそのまま伝わってくる資料で、原画やアニメの絵コンテとは違った視点でプロジェクトを知れる資料だった。

「この企画書は、作成から9年の時が経ったからこそ、皆さまにお見せできたんだと思います。今となって見てみれば、もはや別の自分の人格が作った感じです」と佐野さんは言う。当時はクラウドファンディングという言葉が一般的ではなかった時代。周りの理解が得られないままで進行していくプロジェクトに、「自分がやるしかない」と、当時の佐野さんなりに気合を入れて作ったものが、約10年の時を経て公開された。

この企画書は佐野さん自身にとっても、自分の仕事を振り返るよい資料になっているそうだ。「あの企画書には当時の主観や熱意が結構入ってるんで、たぶん数年前だと恥ずかしくて出すのをためらったと思うんですけど……。9年間塩漬けしてみると、当時の自分を客観的に見られるようになって、頑張ってたんだなと思えるようにはなりましたね」と、佐野さんはかつての自分を懐かしんだ。

佐野さんにとって京都は「第二の故郷」だという。大学時代を含め、青年期の大半を過ごしたこの地への愛着が、佐野さんを動かす大きな原動力となっている。

このように、本当にたくさんの貴重な資料が展示され、筆者は「これって無料で見ていいの!?」という感想が思わず漏れた。

展示会への想い

株式会社魚雷映蔵 佐野リヨウタさん

2023年に10周年を迎えた「地下鉄に乗るっ」のプロジェクト。そして、2025年は魚雷映蔵が法人化してから10周年の節目でもあった。

これまでもアニメに限らず、「地下鉄に乗るっ」のプロジェクトを様々な企画を通して盛り上げてきた佐野さんだが、コロナ禍もあってここ数年は機会に恵まれず、悔しい思いがくすぶっていた

また、かつて佐野さんが、SNS上でファンと交流し、その後、京まふのステージに立った際のお客さんの盛り上がりが忘れられず、「リアルとバーチャルが交差する場」を創出することを模索し続けていた。

会期初日は自らも会場入りし、バックヤードに隠れてお客さんの反応を伺っていたそうだ。たまに展示場をこっそり覗きながら、来場者の足音や話し声を聞いていたという佐野さん。裏側からも確かにその盛況ぶりが感じ取れ、展示会を行った手ごたえを感じたと話してくれた。

賀茂川さんのイラストをアニメの世界で表現する難しさ

「地下鉄に乗るっ」の素敵なキャラクターたちは、イラストレーターの賀茂川さんと、総合デザインオフィス・株式会社GK京都によって生み出されてきた。

装飾性とは距離を置いたシンプルさと、平面的なコンポジションのイラストを得意とする賀茂川さん。一方でアニメーションは、二次元のキャラクターをある意味で立体的に動かすメディアである。そのため、いかに賀茂川さんの素敵な個性をアニメで表現するか、という点にとても苦労したと、佐野さんは言う。

実際に、展示場ではアニメーション化の際に使用したキャラクター設定資料が展示され、賀茂川さんの絵をアニメの世界に落とし込もうとする、アニメーターの方の努力がひしひしと伝わってきた。アニメはYouTubeなどでも公開されているので、あなたの目でもう一度確かめてみて欲しい。

ちなみに佐野さんいわく、当時は技術が理想に追い付かなかったので、アニメーションの表現には満足いっていない部分があるとのこと。次回「地下鉄に乗るっ」のアニメを作る日が来るならば、さらに良い物を皆様にお見せしたいそうだ。

細く長く、京都の文化資本に

「もえポっ」の宣伝をする太秦麗@四条駅

コロナ禍以降、「地下鉄に乗るっ」というプロジェクトをどのようにして続けていくのか、という困難に直面している。

京都市の財政難など、課題は山積みで、母体である京都市交通局のコンテンツ運営に制約はあるが、プロジェクトをここで止める訳にはいかない。10年以上のファンとの信頼関係、そして何よりも佐野さんの熱い思いを通して、いくつかの答えが見えてきたようだ。

京まふへの継続的な出展はその解決策の一つだが、それ以外にも、さらに多くの京都市民の目に触れてもらえるようにと、魚雷映蔵はポスターを制作し、京都市交通局へ寄贈するという形で、「地下鉄に乗るっ」の灯をともし続けている。

「もし僕たちがやめてしまえば、本当に「地下鉄に乗るっ」が終わってしまうかもしれない。再び爆発的にバズるとか、そういうのを目指すのではなく、細く長く続けていけるよう、できることを一つ一つ積み重ねていきたいです」と、佐野さんは言う。

「地下鉄に乗るっ」のキャラクターたちは、10年を越える時を経てきた。「いずれ京都の文化資本としての価値が出くるかもしれないし、今後そういう使われ方をしてもらえると嬉しいです」と強調する。彼女たちは、きっとこれからも京都の街を彩ってくれるだろう。

ポスター寄贈の想い

2025年には、都くんと一緒に、太秦麗が毘沙門堂を背景に微笑む様子が描かれた、初夏のすがすがしい雰囲気を感じさせるポスターが京都市交通局に寄贈された。このポスターは現在地下鉄の各駅で見ることができるほか、山科駅での配布キャンペーンも行われた(好評につき終了)。

こちらは先述の通り、コロナ禍以降止まってしまった「地下鉄に乗るっ」のポスター制作のプロジェクトを、魚雷映蔵が京都市交通局に寄贈するという形でなんとか維持されているものである。

「山科エリアをアピールしたい」との交通局の要望を検討しながら、毘沙門堂に場所を決定したそうだ。このポスターの制作のためのロケハンが行われたのは、まだ冬の時期。想像で新緑の様子を補いつつでの制作となったため、苦労した部分も多いという。

アヌシー国際アニメーション映画祭2025 関連企画で上演決定

「細く長く」とはいえ、作品を露出させ、認知度の向上に努めることは不可欠。京都のローカルコンテンツの在り方として、「地下鉄に乗るっ」を世界に向けて発信する

国際アニメーションの映画祭、アヌシー国際アニメーション映画祭2025併設のビジネスマーケット・MIFA(Marché international du film d’animation)内「インディーアニメ特集」ブースで上演・展示されることが決まった。

2019年にロンドン・大英博物館で行われた大規模な企画展「The citi exhibition Manga」で海外進出して以来、6年ぶりに海を越えることとなったこのプロジェクト。

そのため、アニメ部分に加えて、冒頭にコンテンツの説明をするパートを増やしたものを上映した。海外の方からどのような反応を貰えるのかは未知数だが、佐野さんも現地入りして「地下鉄に乗るっ」をアピールする機会となった。詳細はこちら

 

おわりに

以上、「地下鉄に乗るっ アニメーション展」のご紹介と、その開催にあたって魚雷映蔵の代表、佐野リヨウタさんにお話を伺った様子をお届けした。

インタビューの最後に、「魚雷映蔵の会社としての10周年、そしてこの展示会にたくさんの反響をいただき、成功をおさめることができたのは、ひとえにファンの皆様の応援のおかげです。ありがとうございます」と、改めて感謝を述べた。

また、展示場のキャプションには、「かねてより応援してくださっている皆様には思い出の共有と我々からの感謝を、初めて触れてくださる皆様には新たな魅力との出会いをお届けする機会となれば」とあった。ファンと制作者のつながりを密に感じられる、終始温かい雰囲気に包まれていた。

「地下鉄に乗るっ」というプロジェクトは、行政機関のコンテンツでありながら、その実質的な推進力は魚雷映蔵と、そして何よりも佐野さんの情熱と行動力に大きく依存しているという、特殊な構造を持っている。

この企画展を開催するにあたっても「会社の主業務はあくまでアニメの企画制作。展覧会の企画に割ける人員は少なく、結果的に僕の個人プロジェクトみたいになってしまって、時間がひたすら取られていった」と、苦労を吐露しつつも 、改めて続けていく決意を表明した佐野さん。

財政難やコロナ禍という逆風などといった課題に直面しながらも、ファンとの絆を大切にし、京都という街への深い愛着を原動力に変え、自らが矢面に立って道を切り拓いてきた。その道のりは決して平坦ではなかったが、だからこそ生み出される熱量がある。今回の展示会も、まだ通過点に過ぎないかもしれない。「地下鉄に乗るっ」が時を経ても多くの人々を惹きつけてやまないのは、このような理由からである。

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雨森ライター

投稿者プロフィール

京都歴22年目。KYOTO CMEXの一員として、地元目線からのディープな情報を発信。写真も自分で撮っています。

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