
KYOTO CMEXでは、京都のコンテンツ産業に関連があり、様々な分野で活躍している人物や作品を継続して取材しています。今回は、第27回京都国際学生映画祭(2025年実施)にて、アニメーション映画《にわとりはじめてとやにつく》で入選を果たした栗原侑莉監督に2度目のインタビューをご提案したところ、快諾くださいました。
映画祭の入選から1年が経過し、監督は新しい試みに挑戦してきました。その心境にどのような変化があったのでしょうか。私たちの身の回りを取り巻く環境は日々変わり続けています。この記事では、創作と向き合い続けている栗原監督に詳しくお話を伺いました。
記事を読む前に
栗原監督入選時のインタビュー記事を読む→『にわとりはじめてとやにつく』栗原侑莉監督 独占インタビュー【第27回京都国際学生映画祭入選作品】
にわとりはじめてとやにつくをYouTubeで見る→https://www.youtube.com/watch?v=m238ZW70Kf0
《にわとりはじめてとやにつく》の制作から2年

栗原監督がアニメーション映画作品《にわとりはじめてとやにつく》(にわはじ)を制作してから、2年が経過しました。もともと、監督が所属していた東京藝術大学の卒業制作として作られ、それが2025年の京都国際学生映画祭で入選を果たしました。
コロナ禍の経験をもとにして制作したと、前回のインタビューで語ってくれた栗原監督。原体験である2020年頃から6年以上の月日が経ち、作品に対する想いはどのように変化したのでしょうか。
――映画祭から1年、また、制作からは更に時間が経ちました。長い時間が経過し、作品を取り巻く環境も変わり、《にわとりはじめてとやにつく》に対する心境の変化はありましたか?
当時はコロナ禍に対する悔しさが一番強くありましたが、そろそろ忘れられるようになったと感じています。作品を作って悔しさと向き合ったからこそ、解消できたのかもしれません。
ただ、だからこそ別のことが気になり始めています。作品の結論として用意していた「何にでも意味はある」ということが、本当に正しかったのかなと思い始めるようになりました。「意味があることは救いではあるけれど、意味がなくても人は生きていける」ということを、今後は考えていきたいと思っています。

――《にわはじ》以降、様々な作品作りに挑戦されてきました。栗原監督の出発点でもある本作品は、今後ご自身の中でどんな立ち位置になると考えますか?
立ち戻るべき場所になっていると思います。卒業制作として全力で作ったクオリティへの妥協のなさはもちろん、(コロナ禍の悔しい経験を経て)自分が人に伝えたいと思っていたこと、優しさを持って接しようと思っていたことが詰まっています。それを忘れそうになった時や、新しい作品を作る時に見返して、「あの時これだけ頑張っていたんだから、これ以上のものを作らなければ」と思い出す作品になっています。
清水寺でのイベント「生死」に参加して

「生死」で登壇する栗原監督(中央右)
京都国際学生映画祭では、毎年2月にある本祭の機運を盛り上げるため、様々なイベントを主催しています。2026年はその一環として、「生死(しょうじ)」というプレイベントが清水寺で開催されました。KYOTO CMEXはイベントパートナーとして、当日の様子を取材しています。
関連記事: 清水寺の境内、映画を通して「いのち」を考える。第28回京都国際学生映画祭プレイベント「生死(しょうじ)」レポート
《にわとりはじめてとやにつく》は、イベントタイトルでもある「生死」に関する問題を扱った作品でもあります。栗原監督は過去の入選者としてこのイベントに招待され、清水寺のお堂の中での上映と、トークイベントに参加しました。
――ご自身にとっても興味深い体験だったと思います。ご感想を教えてください。
清水寺の仏様の前で自分の映画を上映できるなんて、数えられるぐらいの人しかいないと思います。貴重な経験で、とても実りのあるものとなりました。
《にわはじ》は、生死を扱う作品ではありますが、実はそこまで深く考えていなかったのかもしれないと思い知らされました。森先生や髙木先生とお話しして、改めて自分の作品に対して別の考え方ができました。お客様からもかなり踏み込んだ質問を頂戴しましたね。自分が描くべきだった死の捉え方について、改めて向き合う面白い体験でした。
アニメーション監督として、ボカロファンとして《超かぐや姫!》を語る

《超かぐや姫!》は、2026年1月22日からNetflixで配信されている長編アニメーション映画です。インターネット・カルチャーの領域を中心に爆発的な人気を集めており、特にボカロPがカバー楽曲やオリジナル楽曲を提供していることに加え、独自のVR的世界観や、圧倒的な映像美が見る人を魅了しています。
――「ボカロ世代」であり、アニメーション映画監督でもある栗原監督の目にとって、《超かぐや姫!》はどのように映ったのでしょうか?
すごく良かったです。月見ヤチヨの顔が良すぎます。内容に関してですが、視聴者に対する尊敬と信頼に溢れた作品だと感じました。すごく「見やすい」んです。映画作品は、様々な人の目に触れることになりますよね。その際、誰にでも伝わるように、脚本や世界観を分かりやすく作るのはすごく難しいんです。もちろん、2時間半ほどある作品を全部手描きでアニメーションしている点にも驚愕しました。さすがNetflixです。
――夢が膨らみますよね。では、もし予算や人員が無限にあるとすれば、栗原監督がされたいことはありますか?
没入型の作品を作ってみたいです。ラスベガスの「スフィア」や東京ディズニーシーの「ソアリン」のような、映像と体の動きが連動して、映像の中に入り込んだような感覚になれる体験に興味があります。アトラクションとしてだけでなく、映画としても転用できないかと考えています。大学院の卒業制作もこの方向性で考えているんですが、ハードウェア開発にもなるので、やっぱり予算的な問題が大きいですね。
休学を経て、映画に向き合う

新作アニメーションの《鯨骨街》
前回のインタビューの後、栗原監督は大学院を休学する道を選びました。学生から離れて映画の創作に携わると、また違った視点から物事を見る機会を得られます。栗原監督は休学中、どのような想いで活動を行ってきたのでしょうか。
――学生という身分から離れてみて、作品づくりに対する心境の変化はありますか?
テーマを自分で設定しなければならない難しさと楽しさを感じています。卒業制作のようなバックアップがない中で、ギャラリーの確保や集客も自分で行わなければなりません。私は作品を見てもらわないと意味がないと思っている派なので、作品への情熱が100%なのはもちろんですが、それに対して3倍の広報をしなければならない、という意識で頑張っています。
――大学外で活動されているのを拝見しています。去年に開催された展覧会、『深海涼(しんかいすずみ)』について教えてください。

栗原監督は右側の女の子のイラストを担当
昨年の夏に大学の同じ研究室だった同期の赦不螺カフシャさんと一緒に開催した二人展です。深海をテーマに、暑い夏に深海の作品を見て涼んでもらおうという企画です。私はそこで《鯨骨街(げいこつがい)》という4分ほどのアニメーション作品を制作しました。深海に沈んだクジラの骨にある街に住む少女が、自分のトラウマと向き合い、それを癒やすための一歩を踏み出す物語です。
《にわはじ》のファンだと言って来てくださる方が、たくさんお見えになりました。YouTubeや卒業制作展をきかっけに私を知ってくださった方々に、新しい作品を見ていただけて嬉しかったです。制作期間が短かったこともありご期待に添えたかは不安な点もあるのですが、次に繋がる良い経験になりました。
おわりに

『深海涼』では、来場者にうちわの配布なども行った
大学院卒業後は、一般企業に就職することを考えているという栗原監督。しかし、創作をやめるわけではなく、表現者として社会経験を積みたいと語ってくれました。確かに、《超かぐや姫!》のような大きな作品を作り上げるためには、たくさんの関係者を巻き込み、そしてマネジメント能力も重要になります。
栗原監督自身が本当に作りたいものを世の中に送り出す道のりは、まだまだ始まったばかり。《にわとりはじめてとやにつく》を原点に、表現の翼を広げている今後を見逃せません。栗原監督の描き出す優しく繊細で幻想的な世界――《にわはじ》では、時間に閉じ込められたような感覚でした――そんな世界観に、筆者は去年のインタビュー時から引き込まれてきました。次のイベントや大学院の卒業制作で、どのような作品が生み出されるのか大変楽しみです。
栗原監督のSNS
X: https://x.com/kastanie_works
Instagram: https://www.instagram.com/kastanie_works/


