京都発:マンガ・アニメ、映画・映像、ゲーム、クロスメディア、メタバースのポータルメディア

映画プロデューサー:齋藤優一郎様が語る「アニメーション映画が切り拓いてきたこと、そしてこれからの未来」とは? 第2回コンテンツクロスメディアセミナー開催報告

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

2023年度2回目となるKYOTO CMEX公式イベント「コンテンツクロスメディアセミナー」を2023年11月20日(月)に京都ブライトンホテルにて開催しました。講師にお迎えしたのは、映画プロデューサーの齋藤優一郎様です。

齋藤様は2011年に映画監督の細田守様とともに、アニメーション映画製作会社「スタジオ地図」を設立。細田監督作品のプロデューサーとして、第91回アカデミー賞ノミネート作品『未来のミライ』などの作品をプロデュースされています。

また、今回のセミナーでは、京都精華大学マンガ学部教授・専務理事である吉村和真様にモデレーターとして登壇いただきました。

まずは齋藤様の生い立ちをめぐる話からスタート。アメリカ留学を経て、アニメーション制作会社マッドハウスに入社。そののち「細田監督が作品にピュアに向き合える場所、いわば小さな苗床」としてスタジオ地図を設立した経緯やこれからの展望を、時系列を追って語っていただきました。


齋藤様は高校卒業後、アメリカに留学した経験があり、現在はアカデミー会員、全米製作者組合員でもあります。そのため、しばしば世界市場を意識したお話も出てきました。

齋藤様 アメリカに留学した頃、すでに日本国内においての「日本のコンテンツは世界を席巻している」と声高に叫ばれ、映画やゲームまでを、作品でなくコンテンツと呼ぶようになった時代でした。しかし現地で見た多くの作品は、作り手の気持ちやテーマなどをきちんと観客に伝えることを放棄して一方的にローカライズされたものが多く、またビジネスとしても決して視聴環境を広げることに熱心な状況下ではなかったように思いました。

そんな中、例えばアニメーション映画『はだしのゲン』は「NO KIDS」というシールを貼られながらも販売されていることもありました。しかし州法によっては成人以外は買うことも見ることも出来ないという、そんな状況でもあった。僕は決して、ポリティカルな話をしたいわけでも、レイティングを否定したいわけでも無く、ただ「NO KIDS」というシールの意味が、セクシャルかバイオレンスかという二つの価値観のみに基づき、視聴環境やビジネスが制限されてしまっているという事実に衝撃を覚えた記憶があります。これでは作品や作り手の意思や想いが本当の意味で世界中に届けられているのかと。日本コンテンツが真の意味で、世界を席巻していると言えるのかと。甚だ疑問に思いました。

吉村様 現在でこそ日本のマンガは海外で数多く流通していますが、『はだしのゲン』はさまざまな言語に翻訳され出版された最初期の作品です。ただ、国や地域によって戦争の記憶や政治的バイアスがかかるなど、なかなか単なる娯楽として読まれることがありません。

(吉村様は、『はだしのゲン』の研究者であり、著書も出版されています。)

齋藤様 こうした経験から、作品を一番良い形で作り、その作品を一番良い形で世の中に送り出し、それを見続けてもらい、そして内容的評価と経済的評価をきちんと勝ち得て、作り手に還元し、また新しい作品というチャレンジに繋げていく。こういった環境を作ることに映画製作者として関わりたい、もしくはこのエコシステムを自分自身で作り上げたいという気持ちから、映画製作には様々な役割がある中で作り手側のプロデューサーになりたいと思い、帰国後、直ぐにこの業界に飛び込みました。

今回のセミナーでは「作品の力」もキーワードのひとつでした。

齋藤様 現在は価値観の変化が非常に早い時代です。その時代の風雪に耐えうる作品を作りたい。そのためにはいつの時代でも変わらない普遍的価値と、逆に時代と共に変化し続ける価値、この二つの価値観を作品に宿すことが大事だと思っています。

長い制作期間を要した作品は内容が古くなり受け入れてもらえなくなるとおっしゃった齋藤様ですが、スタジオ地図の『おおかみこどもの雨と雪』や『バケモノの子』、さらにマッドハウス時代の『時をかける少女』といった細田監督作品は年月が経っても愛され続けています。この理由について、齋藤様は次のように語られました。

齋藤様 多くの細田監督作品が発表から時間が経過しても観客や社会に受け入れられるのは、いつの時代でも必要とされる普遍性と、時代と共に変化を遂げていく価値、成長やバイタリティなどが描かれているからだと思っています。例えば、「家族」というモチーフもそうだと思います。私たちの身近にある家族とは、世界中のどこにでもある家族と変わらない。私たちの家族の問題を解決することは世界中の家族の問題を解決することに繋がるのかもしれない。そういった普遍的なモチーフを映画として描き、世界中に送り出し、多くの人々と映画を通して問題や喜びを共有し、議論をする。その先には、また新たな社会や家族の形も生まれてきたりするのかもしれない。映画は時代を映すもの。だからこそ、普遍と変化を同時に描き、そしてアニメーションという表現だからこそ、子どもや若者達の未来を肯定するような映画を作っていきたい。そう思っています。

最後に、モデレーターの吉村様から、今後のアニメーション作品の展望について質問がありました。

吉村様 今後のアニメーション作品の展望について、特にAIなどの技術がアニメーションに及ぼす影響などはありますか。

齋藤様 AIはすでに社会のさまざまな場面に取り入れられています。火事になるからといって火を否定できないように、もはや、AIの存在そのものを否定できないのではないでしょうか。ただツールとしての法制化は大事だと思います。出来れば、人間の可能性や思考を拡張するためのものとして、より発展していって欲しいものです。

さらに齋藤様は、近年、価値観が逆戻りするような変化を遂げている世界情勢についても言及されました。

齋藤様 近年、世界の歴史が逆行していくような、もしくはこれからの子どもや若者達の未来を肯定し難いような出来事が多く起こっています。私たちに何が出来るのか。何をすべきなのでしょうか?少なくとも、私はアニメーションという表現で作る映画を通して、未来を肯定し、子どもや若者達に対して、この世に生きるに値する世界なんだということを信じてもらえる作品を作り続けたいと思っています。子どもと若者の成長を促し、賛歌し、彼らと共に、親も大人も社会も一緒に成長していく。自分自身も未来に向かって変化し続けていきたいと思っています。


最後に京都について、「時代に合わせて変化しつつも普遍的な魅力を維持し続けている歴史と伝統を実感しました。これを活かし、今後も世界に『京都』を発信し、さまざまな人に国際都市としての刺激を与えてほしい」とのお言葉を齋藤様から頂戴しました。

齋藤様とモデレーターの吉村様のお話は刺激的で、時間いっぱい続きました。最後に質疑応答を行い、この日のセミナーは終了しました。齋藤様、吉村様、ご参加いただきました皆様、誠にありがとうございました。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

KYOTO CMEXKYOTO CMEX実行委員会

投稿者プロフィール

京都シーメックスの公式イベントだけでなく、京都発のマンガ・アニメ、映画・映像、ゲーム、クロスメディアに関連する情報を発信してまいります。

この著者の最新の記事

「KYOTO CMEX」ポータルサイトでは、マンガ・アニメ、映画・映像、ゲーム、クロスメディアの情報を発信する京都発のポータルメディアです。SNSをフォローして掲載情報をチェック!(情報募集

ピックアップ記事

あさきゆめみし&光る君への舞台【京都御所】を聖地巡礼!床と〇を見れば平安建築が分かる!?

【京まふ2024】京都国際マンガミュージアム 『九井諒子展&「ダンジョン飯」迷宮探索展』と『コスミート102』に行ってみた!

【2024年度・第1回コンテンツクロスメディアセミナー開催報告】3DCGアーティスト:小畑正好氏が語る「デジタルコンテンツによって変革するコンテンツ制作」

【TVアニメ『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚- 京都動乱』】(京まふ2024)スペシャルステージ、(T・ジョイ京都)先行上映会&トークイベントにお邪魔しました!!

【映画『ふれる。』トークステージ】イジリ倒される前田挙太郎さんがかわいい!あだ名は〇〇?【京まふ2024レポート】最新場面カット&監督が語る作品の見どころ紹介も!

【京まふ2024】必読!おこしやす大使の岡本信彦さん&山根綺さんにインタビューしました!!

【京まふ2024】いよいよ公開!映画『ふれる。』トークステージ!の様子をレポート!!

【京まふ2024】京まふオープニングステージに行ってみた!

【京まふ2024】おこしやす大使の直筆メッセージ!?京まふ寄せ書きブース

【京まふ2024】突如現れた!幻の『有頂天家族』推朱印(おしゅいん)とは?狸のしっぽがかわいい!

【京まふ2024】TVアニメ「先輩はおとこのこ」トークイベント「ぱいのこ修学旅行」レポート!梅田修一朗や加隈亜衣、梶原岳人らによる妄想ボイスの生披露も

【京まふ2024】TVアニメ「凍牌」京まふスペシャルステージの様子をレポート!!

【京まふ2024】1日目みやこめっせステージ「甘神さんちの縁結び」のステージ取材をしてきました!

【京まふ2024】「アニメ『夏目友人帳 漆』京まふスペシャルステージ~秋の宴~」に潜入!【癒しと笑いの空間を堪能!!】

【京まふ2024】京都アニものづくりAWARD2024を取材してきました!

全て表示

2024年度の人気記事

【公式イベント情報】参加費無料!2024年10月16日開催の第1回コンテンツクロスメディアセミナー開催概要公開&申込受付中!小畑正好氏が語る「デジタルコンテンツによって変革するコンテンツ制作」

【公式イベント情報】第2回コンテンツクロスメディアセミナー開催概要公開&申込受付中!三上 洋 氏が語る「生成 AI の現在と未来」(2024年11月22日(金)開催・参加費無料)

【公式イベント】西日本最大級のマンガ・アニメ・ゲームの祭典『京まふ2024』開催決定!9/21(土)・22(日)みやこめっせを中心に開催!メインビジュアルや出展者申込情報公開中!

【マンガ・アニメ分野】「ブルーアーカイブ (ブルアカ)」地域周遊型イベント「ブルーアーカイブ ~げにうららか☆京都満喫春の旅!~」開催!(2024年4月16日より順次開催)

【KYOTO CMEX独自取材】映画「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」に没入!!東映太秦映画村のコラボイベント【後編】

全て表示

人気記事ランキング

ついに鶴丸がやってくる!聖地・藤森神社での太刀「鶴丸」(写し)の奉納・展示がまもなくスタート!

10月6日までイベント開催中!【鬼滅の刃 京ノ御仕事】東映太秦映画村でのコラボをご紹介!

京都通になれる!?TVアニメ『京都寺町三条のホームズ』聖地巡礼

「孤独のグルメ」原作者:久住昌之氏、「FFシリーズ」生みの親:坂口博信氏が登壇するセミナー、京都で開催!【10/16・30、参加費無料】

寺町三条のホームズ原作者、望月麻衣先生独占インタビュー&聖地巡礼!

平安貴族は〇〇を見せない?若者の服は〇色!?「光る君へ」マンガ「あさきゆめみし」が100倍面白くなる!京都文化博物館【紫式部と『源氏物語』】学芸員さんに話を聞いてきたパート2

京都通になれる!?TVアニメ『京都寺町三条のホームズ』聖地巡礼 その2

アニメ『有頂天家族』の聖地としても有名な京都の下鴨神社でみたらし祭開催中【07/30まで!】

巡ってわかる、心の距離。TVアニメ『月がきれい』聖地巡礼~前編~

【映画・歴史好き必見】東映太秦映画村の魅力をどどんとご紹介!新選組隊士の殺陣や実写映画『銀魂』等様々なロケが行われているオープンセット、仮面ライダー立像の撮影も可能!

全て表示

カテゴリ一覧

種類別カテゴリ

ジャンル別カテゴリ

年別記事一覧

ページ上部へ戻る