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静けさと躍動のあいだ。イラストレーター・千瑛さんが描くKYOTO CMEX新メインビジュアルをご紹介【インタビュー】

2026年7月、KYOTO CMEXは新たなシーズンの幕を開けました。京まふをはじめ、映画・映像、マンガ・アニメ、ゲーム、クロスメディアといった領域を横断しながら、京都から発信されるコンテンツの魅力を今年も届けてまいります。
その幕開けとともに公開されたのが、新たなメインビジュアルです。イラストを手がけたのは、フリーランスのイラストレーター・千瑛(せんえい)さん。静かな雰囲気を得意とするその作風は、今回どのようにしてキャラクターたちの中に息づいたのでしょうか。本記事では、その表現の奥にある世界をたどります。
KYOTO CMEXの活動について

過年度(2025年7月~26年3月)の例
KYOTO CMEXは、映画・映像、マンガ・アニメ、ゲーム、クロスメディアなど、京都から発信される多様なコンテンツを支援する取り組みです。毎年7月に新たなシーズンが始まり、年間のスケジュールやイベント情報とともに、ポータルサイトや印刷物に使用されるメインビジュアルも更新されます。
2026年7月から2027年3月までの今シーズン、そのメインビジュアルを担当したのが、フリーランスのイラストレーター・千瑛さんです。今回のイラストは、株式会社one’s gloryさんが制作を受注し、千瑛さんへ委託するかたちで実現しました。
構図から生まれる、キャラクターと空間の関係

筆者お気に入りの一枚。女の子のゲーマーな様子と、まるで友達のような距離感が、絶妙な構図の取り方から見事に表現されている。
今回の制作にあたって千瑛さんが最初に感じたのは、4人のキャラクターたちそれぞれの「関係性や特徴の違いの面白さ」だと言います。KYOTO CMEXの専門分野になぞらえた4人のキャラクターたちは、私たちの顔となるだけでなく、Xなどでは広報活動を担っており、私たちがとても大切にしている存在です。
それぞれのキャラクターは、同じKYOTO CMEXの仲間たちですが、役割も性格も全く異なります。千瑛さんはそのような差異を、ポーズや衣装だけでなく、背景や小物を含めた「場面そのもの」として表現しました。各キャラクターの1枚絵で完結するだけではなく、様々な目的でイラストが使えるように、4人全員が集まった状態でも違和感がないようにしなければなりません。

画面左には鏡があり、コスプレを楽しんでいる途中なのが容易に想像できる。
「まずキャラクターの向きや角度を考え、それに沿ったシチュエーションやポーズを検討しました。そこから衣装デザインを簡単に描き起こし、それぞれのキャラクターに合った表情や動きを調整していく、という流れで制作しました」と、千瑛さんは今回の工程を振り返ります。
「ただ正面から見た構図では面白みに欠けると思ったため、それぞれのキャラクターを独立させた状態でも成立するよう調整しながら、躍動感のある構図に挑戦しました。人の目を惹くような、魅力的で華やかな構図になるよう意識しています」。千瑛さんが得意とする「静謐な世界観」の中に見事にキャラクターたちが表現されており、KYOTO CMEXのキャラクターでありながら、唯一無二の作品に仕上がっています。
4つの分野、それぞれの個性を描く

グッズを集めているところがかわいい
千瑛さんお気に入りのキャラクターは「ゲーム」の女の子。しかし、イラストを描き進める中で印象に残ったのは、「クロスメディア」の男の子だと教えてくれました。
「ゲームの子は、活発で才能あふれるところに魅力を感じます。また、クロスメディアの子は、ビジュアル面で格好いい印象を受ける一方で、おバカな一面もある所が印象的でした。描き始めてからは、そのかっこよさの中にどこか親しみやすさも感じられるよう意識して制作しました」。
それぞれのキャラクターは、単体のビジュアルとして魅力的であるだけでなく、背景や小物、構図によって、その人物の興味や内面までも感じさせるつくりになっています。ここからは、各分野ごとのイラストに注目しながら、その個性と表現の工夫を見ていきましょう。
ゲーム(れな)

ゲーム好き女子。千瑛さんのお気に入りということもあり、れなの表情がかわいい。モニター上のゲーム画面に加え、桜や蝶のシルエットなど、床マットの細かな描写も見逃せない。
マンガ・アニメ(つかさ)

マンガ・アニメ好き男子。マンガやアニメそのものを表象するのではなく、マンガの原稿やペンタブレットを象徴的に用いているのが印象的な一枚。飛び散る原稿が画面に動きを与えている。
映画・映像(ゆづき)

映研女子。フィルムやカメラを記号的に用いることで、ゆづきの好きなものを視覚的に表現しているのが印象的。椅子の装飾や、浮き上がる近未来的なディスプレイの描写が細かい。
クロスメディア(あきと)

コスプレが趣味の男子。大胆な俯瞰の構図と畳の表現が、日本的で古風な一枚に仕上げている。あきとのコスプレ道具にもこだわりが見られる。
「京都らしさ」という不定の概念をどう表現できるか?

細かい部分の装飾も凝っていて、見ていて楽しい。
私たちKYOTO CMEXからのオーダーの一つとして「京都らしさを演出してほしい」というものがありました。抽象的でイラストレーター泣かせなコンセプトですが、千瑛さんは丁寧に私たちの意図を汲み取り、絵として表現してくださいました。
各キャラクターの要所要所に「京都らしさ」のワンポイントが描き込まれています。「ゲーム」の絵では、れなに単に着物を着させるのではなく、パーカーに着物を合わせた衣装にかんざしを合わせています。「クロスメディア」でも、背景の奥行きを使った表現がなされており、畳とコスプレというモチーフが両立するように描かれています。

「京都のどこに住んでるんだろう……」と想起させる魅力がある。
「衣装や小物、背景などに京都らしさを散りばめ、近未来的な要素と古都ならではの風情の両方を感じられるよう意識しました。京都から発信される様々な最先端技術の魅力を、鮮やかに表現できていれば嬉しいです」と、今回の表現へのこだわりを総括してくれました。
「絵は感情表現の一つ」――絵は作者と世界を接続する方法
千瑛さんにとって、絵を描くことは単なる技術的な作業ではありません。表現者として、また、ひとりの人間として、絵を描くことは世界や他者との対話を模索する方法だと続けます。ここからは、千瑛さんにとって絵を描くことは何かということを深掘りしていきます。
黒や灰色を基調とした、静かで内省的な世界。可愛らしさの中に漂う虚無感や、日常の風景にふと混ざり込む非現実。「ダークで静謐な世界観の中にいる少女」の表現が大好きだと語る千瑛さんの作品からは、私たち鑑賞者を別世界に誘うかのような重厚なオーラを感じられます。
「私は自分自身の作品を描くとき、いつも自分と絵の二人きりになって対話をしています」――そう教えてくれる千瑛さんにとって、幼いころから絵は感情表現のひとつでした。言葉にできない感情や考えを、絵を通して外へと出していく。その積み重ねが、現在の作風へとつながっています。
千瑛さんの作り出すヴァニタス的な雰囲気すら感じる空虚感の中にある紅一点は、私たち鑑賞者が作者の世界に触れられる余白ではないでしょうか。千瑛さんが美しいと感じるものに触れ、そうして私たち自身の世界で再解釈することで、絵が媒介するようにして互いの感性が浮かび上がってくるように感じます。

今回KYOTO CMEXに提供してくださったイラストは、普段の作風とは異なるスタイルのものでした。クリエイターにとって、自分の作りたいものを常に正面に出し続けるのは難しいことです。それでも、KYOTO CMEXのキャラクターたちの楽しげで開かれた雰囲気を丁寧に汲み取り、まるで千瑛さんの世界の中に彼らが生きているかのように仕上がっています。
「自分の作風を商業的なイラストへどのような塩梅で落とし込むかは、今も模索中です。ただ、その時々の用途や自分の感情に合わせて絵を描いている部分もあります」と、千瑛さん。私たちのキャラクターたちが少しでも千瑛さんのインスピレーションに影響を与えられていたのなら、KYOTO CMEXの仲間として幸せに感じます。

「千瑛として描く絵が、私の心の深い部分にある感情や浮かぶ景色と、皆さんとをつなぐための媒体となります。自分の感情や内にある世界が少しでも見る人に伝わればいいなと思いながら作品と向き合っています。それと同時に、私自身もその過程を通して、自分が真に何を好み、何を大切にしているのかを漠然と知る事ができる気がします」。
作品を描くことは、他者へ向かう行為であると同時に、自分自身を知るための行為でもあります。その両方が重なり合うことで、千瑛さんの作品には独特の静けさと奥行きが生まれているのかもしれません。
言葉にできないことを世界に伝える方法

自分のことを文字にして綴ることに抵抗があったり、感情や思考を言葉で表現することが苦手だという千瑛さん。しかし、「絵を通してであれば、何事も素直に話せるような気がします」と、イラストレーターとしての矜持を語ります。
「口に出すのを憚られるような言葉も、言葉に出来ない感情も世界観も、全て絵でなら表現できる気がして、それを誰かに伝えたい。理解して欲しいと思います」――千瑛さんの観ている世界はきっと美しく、同時にどこまでも地平線が広がっている世界なのだと、筆者はそう感じます。作品が世に放たれた瞬間から、作者と私たちの対話が始まります。作者が素敵だと感じる世界の断片に私たちも共感することができるなら、その作品は大きな価値を持つことになるでしょう。
これからの表現へ

「これからも自分の世界を創作し続けていくこと、また、書籍の装丁デザインや、案件などを通して自分の絵を幅広く誰かに知って貰いたいと思っています。その他でも、個人的にインディーゲームを制作したり、絵以外の分野でも自分の表現の幅を広げていきたいと思っています。マイペースになりますが、是非、これからの活動も見守っていただけますと幸いです」。
ダークで静謐な世界を軸にしながらも、表現の幅を少しずつ広げていく千瑛さん。その作品はこれからも、言葉にならない何かを抱えたまま静かに私たちのもとへと届き、見る者それぞれの内側で、新たな感情や風景を立ち上げていくのでしょう。
千瑛(せんえい) @0SenEi_

フリーランスのイラストレーター。主に少女の表現を得意とし、ダークで静謐な世界観を好む。VTuberやゲームの版権イラスト、同人活動、Skebの個人コミッションなど、様々なシーンで活動している。
株式会社one’s glory

京都を拠点に、イラスト制作やシナリオ制作を中心としたコンテンツ企画・制作を手がけるクリエイティブ企業。キャラクターデザインや世界観設定などを一貫して行う制作体制を特徴とし、若手クリエイターの支援や育成にも積極的に取り組んでいる。
京都の道の擬人化キャラクターコンテンツ『~はんなり京都~お通り男史』の原作開発や、デンマーク国立戦争博物館の企画展“Samuraiens Sjæl” (The Soul of the Samurai)にショートアニメ作品なども手掛ける。


