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【BIT SUMMIT 2024】 BITSUMMIT DRIFT出展者へのインタビューから考える、インディーゲーム制作における入口について
日本最大級のインディーゲームの祭典であるBitSummitが、今年も、京都京都市勧業館みやこめっせにて7月19日~21日の計3日間開催された。
この記事では、当イベントにレポーターとして参加した筆者がプレイ・取材した3つのゲームから、インディーゲーム制作における入口について書いていきたいと思う。
はじめに、BitSummitについての簡単な概要を説明しよう。
『BitSummitは、毎年京都で開催している日本最大級のインディーゲームの祭典 です。「国内のおもしろいインディーゲームを海外に向けて発信していく」という趣旨のもと、2012年後半に発足されました。2013年、同業者向けの小規模イベントとして開催した初回の来場者は200名ほどでしたが、2018年には来場者数1万1千人を超える大きなイベントに成長しました。』
BitSummit公式HPより引用
公式HPでも触れられているように、BitSummitの来場者数は年々増加傾向にあるが、その要因の1つとして、インディーゲーム市場そのものが拡大していることがあるのだろう。
大手ゲーム販売会社である任天堂株式会社でも、自社公式ウェブサイトに「Indie World」というコーナーを設け、自社製品であるNintendo Switchでプレイすることができるインディーゲームの紹介をしていたり、「Steam」に代表されるゲームのダウンロード販売プラットフォームの発展により、買い手にインディーゲームが届きやすくなっていたりと、近年のインディーゲーム市場は、インディーゲームバブルとでも形容すべき状況にあるのだ。
Indie Worldの画面(引用:https://www.nintendo.com/jp/software/feature/indieworld/index.html)
Steamの画面(引用:https://store.steampowered.com/?l=japanese)
このインディーゲームバブルについては、私自身がプログラムやコンピュータと関連深いデータサイエンス学部に在籍していることもあり、同じ学部生にも「趣味でゲーム制作をしている・したい」という人が多いことからもその余波を感じるところであるが、実際にインディーゲームを制作するとなった場合に、とても重要なことがある。
それは「インディーゲームにはジャンルから内容まで多種多様なゲームがあるが、どのようなゲームを制作することになろうと、必ずそこに制作の入口となるアイデアが必要となる」ということである。これは至極当然のことであるが、この最初のアイデアを絞り出す作業が最も大きな壁となることについては、何らかのクリエイティブな作業を行ったことがある人ならば誰もがうなずくであろう。
この世に新たなインディーゲームを生み出す意欲のある人物が、そのアイデアを絞り出す作業でつまずいてしまうことは大きな損失であると感じたので、これからインディーゲームを制作する可能性のあるすべての人に向けて、BITSUMMIT DRIFTに出展されていたインディーゲームの中から3つのゲームの出展者に行ったインタビューをもとに、この記事冒頭で触れたインディーゲーム制作における最初のアイデアの出し方について書いていきたいと思う。
1.3文字限定・対戦クロスワード
はじめに紹介するのは、「3文字限定・対戦クロスワード」というゲームである。
このゲームは、5×5の25マスに、3文字ぴったりの言葉を入れていく対戦ゲームとなっており、基本ルールは以下の通りである。
・新しい言葉を置く際に1文字以上重ねる。
・向きは上下左右どの方向でも可。
「しみん」に「しかく」を重ねるシーン(GIF)
また、ゲームを進めて全てのマスを埋めると、このゲームの醍醐味とも言える、まだ使われていない言葉を見つけ出す後半戦に入る。
「ぶろぐ」を見つけ出すシーン(GIF)
知っている単語のはずなのにうまく見つけることができないときのハラハラ感や、次に埋めたいと思っていた単語を相手に取られてしまったときのしてやられた感など、その25文字の箱からは想像もつかないスケール感を楽しめるだけでなく、このゲームを通じて新たな単語を知ることもできるため、楽しみながら勉強にもなる一石二鳥のゲームとなっているのだ。
さらに、この「3文字限定・対戦クロスワード」はUnityroomで公開されており、誰でも無料でプレイすることができるため、ぜひプレイされたい。
(URL参照:https://unityroom.com/games/threecross)
この「3文字限定・対戦クロスワード」から紹介したいアイデア出しの手法は、「既存のゲーム(パズル)を改良して、新たなゲームを生み出す」という考え方である。
このゲームは、クロスワードパズルという誰もが一度は目にしたことがあるゲームを基盤とし「3文字の制限」や「対戦要素」を付け足すことで新たなゲームとしているが、このような基盤があるゲームは、アイデアを考える第一歩にしやすい他に、周知された基盤のルールを踏襲できるためルール説明がスムーズになるというメリットもあるのだ。
ただ、既存のゲーム(パズル)を改良する際に考えるべき重要なポイントがある。
それは、「どのようなルールをどこまで付け足すのかの塩梅の調整が難しい」という点である。実際に、出展者にお話を伺ったところ、重要なルールである「3文字の制限」について、この文字数を決定するのが難しく、2文字や4文字など様々な文字数を試した結果3文字が最適であったという回答をいただいた。
だが、私はこの点をデメリットだとは思わず、むしろメリットであるかのようにさえ思うのだ。
なぜなら、ゲーム制作に限らず、あらゆる創作において初心者はついつい設定を盛り込みすぎてしまうところがあるからだ。自分のできることを把握できていない初心者にはありがちであり、恥ずかしながら私にも経験があることなのだが、ここに先ほどの試行錯誤が活きてくる。
試行錯誤を続けるうちに盛り込みすぎた設定が削れていき、ちょうどいい塩梅になっていく、本来デメリットであるはずの作業が初心者にとってはメリットたりえるのだ。
よって、私はこの「既存のゲーム(パズル)を改良して、新たなゲームを生み出す」手法を、つまずいてしまっているゲーム制作初心者に強く推すのである。
2.Electrogical
つぎに紹介するのは、「Electrogical」というゲームである。
このゲームはパズルと四則演算を組み合わせており、プレイヤーは +1 や -1 などの四則演算が書かれているジグソーパズルのピースを使って、「スタートの電源ピースからゴールピースまでをつなぐ」ジグソーパズルの要素と、「道中の演算結果をゴールピースの数値と一致させる」四則演算の要素を同時に達成する必要があり、その知力が試されることになる。
「+1」を3つ繋げて「3」にしつつパズルを解く
また、解き方が1つでない(使用したピースの数で得点が変わる)ステージもあり、プレイヤーのクリエイティビティが発揮されるゲームとなっている。
ピースをすべて使い切り高得点に
さらに注目すべき点は、このゲームはパズルゲームには少し珍しく、ゲーム性のみならず、シナリオにもこだわっており、ステージを進めることで壮大なシナリオを少しずつ体験できる点である。
ストーリーを実装することで、パズルを解くことにパズルを解くこと以外の楽しみを付与しており、プレイヤーが長きにわたって楽しむことを可能としているのだ。
そんな「Electrogical」であるが、実際のプレイは以下の動画から確認できるため、ぜひとも確認されたい。
また、本リリースはまだである(2024/9/11現在)ものの、Steamでデモ版が公開されているので、気になった方は一度プレイしてみてはいかがだろうか。
(URL参照:https://store.steampowered.com/app/2501650/Electrogical/?l=japanese)
そして、この「Electrogical」から紹介したいアイデア出しの手法は、「コンセプトから考える」というものである。
本題に入る前に、このゲームについて最も驚くべき点を紹介したいのだが、それは、パズルゲームであるにも関わらず、パズルがスキップできるという点である。これは「一旦諦めて別のステージを先にプレイする」という機能ではなく、完全にパズルがスキップでき、その先のストーリーを読むことができる機能となっている。
ただパズルゲームを考えるだけならば到底考えつかないであろう機能であるが、この驚きの機能を実装するに至った理由として、コンセプトから考えていることが大きく影響しているのだ。
その重要なコンセプトについてであるが、出展者にお話を伺ったところ、このゲームの主なコンセプトは2つあり、それは「寝る前に少しプレイする程度のウェイトが軽いゲーム体験を提供する」ことと「プレイヤーに合わせたゲーム体験を提供する」ことであるという回答をいただいた。
つまり、ウェイトの軽いゲームを提供するために、プレイヤーがパズルにつまずいて進行不可能となる状態を良しとせず、スキップしてストーリーを読むことを可能とする決断に至ったということであり、コンセプトありきの考えから実装した機能であるのは明らかだ。
また、上記の機能を使うパズルにそこまで重きを置いていないプレイヤーがいる一方、ただ面白いパズルが解きたいといった、パズルにかなりの重きを置いているプレイヤーもたしかにいる(私もそのクチである)。そのため、そのようなプレイヤーのためにゲーム説明の部分で記したような、パズルをやりこめる(解き方が1つでない)ステージも実装しており、軽いものを求める人には軽く、重いものを求める人には重く、プレイヤーに合わせたゲーム体験を提供することを可能としている。これもコンセプトから考えているからこそなせることであり、アイデアを絞り出す段階でコンセプトが大きな助けになることがうかがえる。
よって、私はこの「コンセプトから考える」手法を、つまずいてしまっているゲーム制作初心者に強く推すのである。
3.うつルーム
最後に紹介するのは、「うつルーム」というゲームである。
このゲームのルールはただ一つであり、空間をコピー&ペーストすることでギミックを解き、ゴールを目指すことである。
壁が邪魔をして旗(ゴール)まで進めないが
何もない空間をコピーして壁にペーストすることでゴール可能に
また、ステージが進むにつれて、当たるとゲームオーバーになってしまうレーザー砲や、触れることでボックス間をワープできるワープボックスなど新たなギミックが登場し、プレイヤーを飽きさせないゲームとなっている。
中にはこんなユニークなステージも
様々なギミックが組み合わせられることで、一筋縄ではいかないステージも多数実装されているため、その直感的なルール・操作性とは裏腹に、大変歯ごたえのあるゲーム体験を楽しめるのは間違いないであろう。
そんな「うつルーム」であるが、実際のプレイは以下の動画から確認できるため、ぜひとも確認されたい。
そして、この「うつルーム」から紹介したいアイデア出しの手法は、「最初から万全なアイデアを求めない」というものである。
これは、「3文字限定・対戦クロスワード」で述べた「自分のできることを把握できていない初心者はついつい失敗してしまう」ということに通じる話であるが、ゲーム制作の初心者は最初から万全なアイデアを求めてしまう節がある。しかし、世界一売れるゲームは初めから世界一売れるゲームであったわけではなく、様々な開発過程での変更や改善があったうえで世界一売れるゲームとなったのであり、制作者はアイデアを磨きあげる必要があるのだ。
実際に、かの有名な、世界で最も売れたインディーゲームとしてギネス世界記録に登録されている「Minecraft」も、現在では様々な種類のブロックや装飾、mobが実装されているものの、最も古いバージョンで実装されていたのはたった2種類のブロックのみであった。また、昨年リリースされ話題となったインディーゲーム「8番出口」も、最初期はゲームの目玉であるループ要素・進むか、引き返すかの要素はなく、その発想に至るまで時間がかかっていたことがわかり、制作者の苦悩がうかがえる。
この「うつルーム」も例外ではなく、出展者にお話を伺ったところ、現在実装しているステージも、最初からすべて思いついたわけではなく、開発の過程で少しずつ増やしていったという答えをいただいた。
つまり、最初から万全なアイデアなどなく、それを求め続けていてはいつまでたってもゲーム制作など夢のまた夢なのである。
だがしかし、初心者ほどそれに気づくのが難しく、ついついつまずいてしまう。
よって、私はこの「最初から万全なアイデアを求めない」手法を、つまずいてしまっているゲーム制作初心者に強く推すのである。
まとめ
さて、「3文字限定・対戦クロスワード」「Electrogical」「うつルーム」という3つのゲームとその出展者へのインタビューから、「既存のゲーム(パズル)を改良して、新たなゲームを生み出す」「コンセプトから考える」「最初から万全なアイデアを求めない」という3つのアイデア出しの手法を紹介したが、この3つを総括して考えると、最も良いアイデア出しの手法は、今回行ったインタビューのように「先人に学ぶ」ことであるのではないだろうか。
といっても、インディーゲーム制作者に話を伺う機会などそうあるものではなく、ハードルの高い行為であることは間違いない。どこかでインディーゲーム制作者が集うインディーゲームの祭典でもやっていないだろうか……と、思ったそこのあなたは、ぜひとも、来年も開催される日本最大級のインディーゲームの祭典BitSummitに参加し、様々な出展者と交流してみて欲しい。
そうすることで、いつかあなたもインディーゲーム開発者としてBitSummitに出展し、インタビューをされる側になることができるかもしれない。
そうして、インディーゲームの環がずっとつながっていき、世に多くの新たなインディーゲームが誕生することを私は望むのである。
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