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【(再掲)立命館オンラインセミナー】 ゲーミフィケーションの進化がもたらす影響と新たな価値 ~日常には「あそび」と「学び」が溶け込んでいる~ 開催報告

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Akito Inoue

立命館大学 映像学部講師
井上 明人氏

立命館大学では、2022年10月14日(金) に、ゲーミフィケーションの進化が社会に与えるさまざまな変革について考えるセミナー「ゲーミフィケーションの進化がもたらす影響と新たな価値~日常には「あそび」と「学び」が溶け込んでいる~」をオンラインで開催しました。日本で唯一のゲーム分野における学術的機関となる立命館大学ゲーム研究センターに所属し、ゲームのアーカイブやデータベースに関わるプロジェクトに多数関わっているゲーミフィケーションの第一人者・立命館大学 映像学部講師の井上明人氏がスピーカーとして登壇。ゲームが日常に溶け込むことで社会にもたらされる影響や新たな価値について解説しました。

ゲーミフィケーションとは、ゲーム以外の文脈にゲームの要素を導入したり展開したりすることを指す言葉です。ゲーミフィケーションの例として、井上氏から「Walking With Video」という取り組みが紹介されました。「Walking With Video」は、YouTubeに投稿されている世界中のさまざまな場所で撮影された散策動画を見ながらその場で足踏みをすると、その風景の中を歩いているような体験を提案しているものです。一種のバーチャルツアーのようなもので、日常では触れられないような場所や機会に気軽にアクセスして楽しめます。

「Walking With Video」の特徴は、単に自動再生の動画を見るのではなく、体を動かすことで動画を見る体験の形を変えられるという点です。家族や友人と一緒だと会話をしながら旅行をしている気分を味わえるなど、動画視聴という受動的な体験を能動的な体験に変えられるのが大きな魅力です。このように、普段何気なく見ているものにゲーム的感覚を入れ込むと味わえる体験の内容も変えていけるのがゲーミフィケーションの持つ力であると井上氏は解説されていました。

少しずつ私たちの日常生活に広まってきているゲーミフィケーションですが、実際に社会にもたらす影響とはどのようなものがあるのでしょうか。従来は、遊びやゲームとは基本的に不真面目でよくないものと捉えられがちでした。これは現代に限った話ではなく、16世紀にキリスト教の牧師が遊びの悪魔という絵を描くなど昔から根強い考え方です。しかし一方では「仕事ばかりしていて遊ばないでいるとつまらない人間になる」といった格言も存在します。井上氏によると、文化人類学の研究では、狩猟採集民の子どもは森でドングリを拾ったり動物と追いかけっこをしたりして遊び、大人たちは森で木の実を拾い集め動物を追いかけて狩猟していることから、大人がやっている経済活動は子どもの遊びと連続性があるという報告が複数あるのだそうです。

現代では遊びやゲームを不真面目なものという領域に囲い込み、仕事や勉強とは違うものだという考えが広く見られますが、これは人類の歴史的にはそこまで一般的な考え方ではないだろうということでした。

slide2

ゲーミフィケーションが近年与えている社会的影響の背景として井上氏が挙げたのは、デジタル技術の発達です。2004年、アメリカ大統領選挙の民主党候補だったハワード・ディーン候補は、選挙広報活動の一環として、選挙広報活動を体験するという20分程度で遊べるゲームを製作しリリースしました。4年後の2008年の大統領選挙では、民主党候補だったバラク・オバマ氏が公開した支援サイト「myBarackObama.com」が話題に。会員登録すると、募金やブログ投稿などの活動回数に応じてサイト内でのランクが上がり、一定ランクに昇格すると支援イベントなどに招待されるというゲーム感覚あふれる仕掛けになっていました。このサイトがオバマ氏の当選を大きく後押しし、ひいては現代の政治において影響を与えたというのが井上氏の見解です。

そして2010年代の大きなインパクトとしてよく知られているのが、任天堂がリリースした『ポケモンGO』です。爆発的なヒットとなり歴史的なダウンロード数を記録したこのゲームは、歩くという日常的な行動にゲーム要素を取り入れたゲーミフィケーションの代表格と言えます。その後、現実世界で起こる物理的なすれちがいをゲーム内の価値に変換できる『ドラゴンクエストウォーク』、散歩や通勤の移動がゲーム内の環境変化にリンクした『ピクミンブルーム』といったゲームがヒット。さらに栄養管理やフィットネスなどの分野でもゲーミフィケーションが導入されており、ゲーミフィケーションを用いる流れが世界的に大きくなってきていると井上氏は指摘しました。

ますます注目度が高まるゲーミフィケーションですが、将来的にはどのようになっていくのでしょうか。井上氏は、ゲーミフィケーションが今後発展していく上での課題点について情報技術的要因、社会的要因、ゲームデザイン上の3つの領域に分けて論点を整理しました。

1つ目の情報技術的要因としての課題は、現実世界の情報を、デジタルな情報に変換していく技術の発展速度が特に重要だと言うことです。たとえば、センサリング技術の向上はその一例です。近年のゲーミフィケーションやゲームの社会的活用事例が増えてきていることを踏まえ、情報技術が発展すればするほどゲーミフィケーションが進展していくだろうとのことでした。日常空間のあいまいな情報をデジタル情報に変換していく技術や、データフォーマットの整備によって現時点では人間しか判断できない情報を標準化して扱える技術、スマートスピーカーなどのIOT技術が普及していくことが鍵になるだろうとお考えだそうです。

今後の展開として井上氏は、ファジーな情報判断のイノベーションを予測しておられます。たとえばフィギュアスケートの評価など素人には分かりづらい曖昧な情報を自動評点化する、日々の練習の積み重ねが必要な語学学習や絵を描くことへの評価にゲームの要素を取り入れるなど、技術の発展によって従来は難しかったことの実現のめどが立ちつつあるのではないかという見通しを示されていました。

2つ目の社会的要因としては、個人情報保護などプライバシーに関する法制度の対応などが挙げられます。現実世界の情報をデジタルに変換する技術は、監視社会的な懸念と表裏一体のものです。ゲーミフィケーションを発展させるために、どのような形で第三者がユーザーの情報を見られるようにするのか、どこまでがいいのかどこからが駄目なのか。そしてやりがい搾取やフェイクニュースが拡散されやすい状況への対応についてもきちんとした議論が必要だろうと分析されました。

さらにゲーミフィケーションの専門人材の育成についての言及もありました。今では一般的な認知度があるデザイナーという職業は200年前にはなく、近代デザインの運動によって確立された職業です。ゲーミフィケーションにかかわるデザイナーの育成も同じように新しい職業として成立してくる可能性があります。行動プロセスをデザインするという新しいアクションができる人を育てることになります。井上氏は「技術の発展とあわせて人材育成は非常に重要な問題だ」とお話しされました。

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3つ目のゲームデザイン設計上の要因としての課題は、ゲーム設計の可能性の拡張です。たとえばゲームは基本的にルール変更ができませんが、現実世界では前提ルールが変わるのはよくあること。また、これまでのゲームは既存の映像メディアとは違って記録するという性質が希薄でした。ゲームの根本となるルールが変化できる仕組みをもつゲームや、記録をベースとしたゲームを設計することができれば今後さらにゲーミフィケーションが発展していくのではないかと井上氏は指摘しました。

ゲームはすでに私たちの社会に浸透していますが、今後は日常生活にゲーム感覚を入れる状況が徐々に広がってくるでしょう。井上氏は、遊びやゲームと労働や学びは連続している現象であるというこれまでの歴史の動きを踏まえると、さまざまな技術が大きく発達した近代以降の価値観を現代で再構成していると言えるのではないかと考えているそうです。

質疑応答では、井上氏に小中高生に向けたゲーミフィケーションの例やコロナ禍でゲームが教育やコミュニケーションにもたらした影響や役割の変化、ゲーミフィケーションを取り入れたビジネスとしての市場成長性といった質問に対してお答えいただきました。ゲーミフィケーションの進化によって私たちの日常生活がゆっくりと、大きく変化していく未来像がリアルに想像できる1時間でした。

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