はじめに、BitSummitについての簡単な概要を以下に記す。
『BitSummitは、毎年京都で開催している日本最大級のインディーゲームの祭典 です。「国内のおもしろいインディーゲームを海外に向けて発信していく」という趣旨のもと、2012年後半に発足されました。2013年、同業者向けの小規模イベントとして開催した初回の参加者は200名ほどでしたが、2018年には参加者数1万1千人を超える大きなイベントに成長しました。』
BitSummit公式HPより引用(一部表現を記事内の表現に統一)
上記のように、BitSummitは10年以上の歴史をもつ祭典であり、その歴史の中で目まぐるしい成長を遂げているが、中でも近年の参加者数の増加スピードには目を見張るものがある。KYOTO CMEX事務局から参加者数の統計データをご提供頂いたので、実際の数字を見てみたい。
年度別BitSummitオフライン参加者数のグラフ
コロナ禍前の最後のオフライン開催である2019年の参加者数1万7千人から、コロナ禍後の最初のオフライン開催である2022年の参加者数9千人を経て、2023年の参加者数2万3千人と、V字回復を果たしているだけでなく、2024年の参加者数は、過去最多の3万8千人を達成しており、2019年のダブルスコアと驚異的な数字を達成しているのである。
では、なぜBitSummitはここまでの参加者数増加を可能としたのであろうか?
その理由を考えるうえで外せない大きな要素が、開催日数の増加であろう。
2019年は6月1日(土)~2日(日)の2日間開催されていたBitSummitだが、2023年からはその日数を増やし、ビジネスデイを含む3日間の開催となっている。一般客が来場できないビジネスデイといえど、開催日数が1日増加したことによる参加者の増加効果は大きなものになるだろう。
一方で、グラフを確認すると、同じ開催日数(3日間)である2023年と2024年で参加者数に1.5倍以上の差が出ている。そのため、参加者数の増加を開催日のみで説明することはできないことから、「他の要素」について考える必要がある。
その「他の要素」の筆頭となるのが、オンラインイベントの存在であろう。
年度別BitSummit オンライン参加者数のグラフ
BitSummitは先述したコロナウイルスの影響により、2020年にはBitSummit Gaiden(外伝)と称し、『大阪電気通信大学』『立命館大学』『京都コンピュータ学院』による「ゲームジャム(短時間でゲームを制作する催し)」や、2021年にはXフォロワー数26.4万人、YouTubeチャンネル登録者数57.7万人(両2024年現在)を誇る著名ストリーマー『わいわい』氏による「インディーゲーム20タイトル耐久実況」など、様々なオンラインイベントの開催を行っている。このオンラインイベントの参加者数の増加がオフラインよりも凄まじく、2020年の参加者数が15万7千人であったのに対し、2023年の参加者数が218万人と、3年間で約14倍に増加しており、その急成長ぶりがうかがえる。
BitSummit Gaidenアーカイブ(DAY1・DAY2)
『わいわい』氏による耐久実況配信アーカイブ(前・後編)
そして、このオンラインイベントの急成長の立役者となったのが、先述した『わいわい』氏をはじめとした、ストリーマーやTikTokerなどの人気インフルエンサーであろう。
先ほどのオンライン参加者数のグラフをもう一度確認されたい。
年度別BitSummit オンライン参加者数のグラフ(再)
2020年の参加者数15万人7千人から、2021年の参加者数が104万人と、文字通り桁違いに増加しており、2021年が1つの転換点となっていることが確認できるだろう。その2021年に起こった2つの変化(転換)が、「オンライン配信の媒体(中国の動画プラットフォームであるBliBliや、TikTokなど)の増加」「インフルエンサーによる配信(2021年の『わいわい』氏による耐久実況配信が初)」である。よって、この2つの変化(転換)こそが、オンライン参加者数の増加について大きく貢献しているのは間違いないだろう。(実際に、京都府産業振興課の方からも、この分析が正しいとお墨付きをいただいた。)
また、2022年からはオフライン開催の復活に合わせ、現地の展示会場内で耐久配信イベントやライブを行い、その様子をオンライン配信するというスタンスをとっており、これにより、インフルエンサーを一目見たいというようなファンを現地に呼び込むことに成功しているのだ。実際に、今年(2024年)開催のBitSmmitでも、会場入り口前でインフルエンサーによる簡易的な握手会のようなものが行われていたが、その列の長さ(来場しているファンの多さ)に驚いたほどである。
よって、オンラインイベントはYouTubeやTikTokをはじめとしたSNSで話題になることや、ゲストを目当てに来場するファンも少なからず存在することから、知名度向上・新たな客層の呼び込みという2つの点で参加者数増加に貢献していると考えられるため、BitSummitにおいて欠かせないコンテンツとなっていると言えるだろう。
しかし、オンラインイベントの貢献のみで、オンラインイベント開始以前から倍以上に参加者数が増加するとは考えにくい。そのため、参加者数が増加した大きな要因は、やはりBitSummit自身の成長にあるのではないかと思う。
BitSummitの成長を如実に表しているのは、展示会場のフロア数の増加であろう。2023年の展示会場はみやこめっせ1階のみだったものの、2024には新たに3階も展示会場となり、展示作品数の増加・会場キャパシティの増大を行っている。
2023年の会場マップ
2024年の会場マップ(上:3階 下:1階)
フロア数の増加は、出展希望社(2024年だけでも、インディーズゲームだけではなく大学やゲーム大手等が参加している)の増加が直接的な理由と考えられる。会場キャパシティが2倍になり、出展者が増えたことは、参加者数増加につながる大きな要素であると思われる。だが、フロア数の増加によりもたらされるメリットは、単純な参加者数増加のみではないだろう。
2024年の1階マップに注目すると、左下部分にボードゲームコーナーを見つけることができる。これは2023年のマップには確認できないコーナーであり、事務局に伺ったところ、今年から始まった新たな試みだという。単純な参加者数の増加のみではないといった理由の一つはこのボードゲームコーナーの主な客層にある。
PCやゲーム機をプラットフォームとするゲームの多くは1人プレイ向けだが、BitSummitにはグループで参加している客も少なくない。複数人プレイのものが多いボードゲームは、こうした層に向いているようで、ボードゲームコーナーでは多くの家族連れで賑わう姿を確認することができた。
賑わいを見せるボードゲームコーナー
また、客層という点で印象に残っているのが、外国人客の多さである。
客数としての多さもさることながら、国籍のバリエーションとしての多さもすさまじく、会場内ではあちこちで様々な言語での井戸端会議が起こっており、BitSummitの海外人気にただただ驚いたものだ。
これらを踏まえて考えると、コロナ後の「BitSummitの参加者数の大幅な増加」というのは、ただ参加者数が増えたというだけのことではなく、BitSummitそのものの形態が大きく変化しているということを表しているのではないだろうか。
つまり、「2013年に同業者向けの小規模イベントとして始まったBitSummitは、オンラインイベントの開始や、展示フロア数の増加などの大きな成長を遂げ、家族連れ・外国人といった観光客をはじめとした新たな客層を獲得し、2024年現在では幅広い人物に人気の観光イベントになっている。」ということであり、京都におけるMICE推進の観点からも「観光事業としてのBitSummitの可能性」は一考に値するだろう。
現時点では過去7年分の参加者データを眺めただけなので、確証をもったことは述べられないが、これからは今年の参加者や国籍別参加者数、出展者統計など新たなデータも用いて更なる分析を行い、この「観光事業としてのBitSummitの可能性」について迫っていきたいと思う。
来年度もさらに参加者数を増やし、「日本最大級のインディーゲームの祭典」の名に恥じない躍進を遂げるであろうBitSummitであるが、コロナウイルスという逆境をも跳ね除け成長を続けるその姿からは、今後も目が離せない。
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